母娘旅 世界にひとつだけのミニ畳作り
更新日: 2024年12月19日(木)
コツコツコツ・・・パタパタッ
しっかりと地面を踏み締める大人の足音の後に、軽やかで無邪気なステップがあとを続く。ここは栗原市若柳にある只見工業所。江戸時代末1836年(天保7年)から多くの栗原市民に愛されている老舗の畳屋さんだ。
ミニ畳作りの素材選びが楽しい!
さあ、到着だ!
今日は只見工業所に、1組の母娘がミニ畳作りにやってきた。
二人は初めてのミニ畳作りで、目をまるくしながら店内をぐるりと見渡し、顔を見合わせてフフッとひと笑い。母と娘のちょっぴりくすぐったい雰囲気は、周りをふわりと優しく包み込む力があって、なんだか店内に広がっている畳の心地よい樹木の香りのよう。
畳の原料のい草には天然のアロマ効果が期待されていて、その香りは樹木のような爽やかさとバニラアイスクリームのような、ひとさじの甘さが組み合わされている。
なんとなく、どこか懐かしさを感じる香りの効果も相まって、初めて訪れたとは思えないほどの安堵感に包まれた二人。
さっそく、畳作りの素材選びからスタート
夕日のような照明に照らされて、いっそう艶やかな姿で二人を魅了しているのは、畳の縁(へり)に使用する生地の数々。
「へぇ、いっぱいある!」
「どれにしようかなあ。何にする?」
畳の縁(へり)なんて聞くと、昔ながらの古風なイメージがあるけれど、二人の目の前にはまるっきり別世界が広がっていた。
赤や黄色に紫などの色にトランプや雪の結晶、可愛いキャラクター柄まで!
畳縁の生地は、昔は綿100%のものが多く出回っていたけれど、色が変化してしまうため、現代では色の変化が少なく丈夫な化学繊維が主流に。
こんな奥深い畳の歴史を知ることができるのは、只見工業所の先代が後世につないでくれたからこそ。
二人は両手に生地をしっかりとつかみ、右手と左手を交互ににらめっこ。その姿は鏡のようでもあり、だけど選んだ色はお互いに別々。
それぞれに選んだ生地をのぞき込んで見ては、にやにやしながらたわむれ合う時間も母娘体験のうれしいところ。
さて続いては、畳の表面(畳表)選び
只見工業所では、熊本県産100%のい草を使用した天然畳表のほか、年数が経っても色が変わりにくい化学繊維との合成畳表など、お客さまの利便性に寄り添った素材で畳表を提供している。
二人とも畳表をゆっくりと触りながら、うーんと悩みながらも別々の素材に決定。
畳作りの現場「愛畳工房」へ
よし決まった!母娘はキリリとした表情で、只見工業所の畳製造現場「愛畳工房(あいじょう こうぼう)」へ。
工房の中には、畳を製造するための機械がいくつもあるのだけれど、い草が生み出す樹木の深い香りが、この工房を無機質な場ではなく、深い森の奥を連想させるような、不思議と居心地のよい雰囲気を醸し出している。
二人は、大きなテーブルに並べられている畳作りの道具たちを、へえ、とのぞき込む。「カッター」に「ハサミ」、そして畳針と呼ばれる大きな針に、ホッチキスを大きくしたような道具の「タッカー」、その他にもいくつかの道具が、二人のために首を長くして持ちわびていた。
「うまく、できるかなあ」
だいじょうぶですよ、と工房スタッフの方は柔らかく微笑んだ。
ちょっぴり安心した二人は、さっそく制作開始
まず畳表を芯材と呼ばれる板にタッカーで留める
バツンッ、バツンッ
歯切れのよい、心地よいタッカーの音が工房に鳴り響く。
お手本をじっくりと見つめながら、二人は慎重に狙いを定めて・・・
バツンッ!
コツをつかめばやみつきになるタッカーは、ちょっとだけ力が必要な道具。
小学校低学年からそれ以下のお子さまは、スタッフの方と一緒に、またはお父さんお母さんのお手伝いが必要だ。
畳表を芯材に被せるようにして固定できたら、念のためにハンマーを使ってしっかりとタッカーの針を芯材に押し込む作業。
ダンッ!ダンダンダン!
母の手際のよい動きをお手本に、
タンタンタン・・・と控えめな音が後を続く。
「うん、良いんじゃない?」
母娘そろってお互いの畳をチラッと見つつ、よし、順調順調とちょっぴり余裕の笑みがあふれる。
集中が必要な畳縁の取り付け
さあ、次は集中が必要な畳縁の取り付け
畳縁をそのまま畳に取り付けてしまうと、よれてしまう可能性があるので芯下紙と呼ばれる芯材を入れて、しっかりと固定させる大事な作業。
ここは手順通りに慎重に慎重に・・・
まずは畳縁の生地を裏返しにして、
畳にタッカーで固定。バツンッ!
右と左の両端を、ヨイショと。バツンッ!
二人の表情は余裕の笑みから、真剣な表情に。
やわらかなクリーム色の芯下紙を、
畳縁に重ねて・・・バツンッ!
だいぶタッカーの扱いにも慣れてきた親子の口からは、
これいいねぇ、なんていう声も
ミニ畳作りの楽しさは、完成品をお持ち帰りできることはもちろん、実体験で得られるさまざまな感覚が醍醐味。タッカーの使い心地や、畳表を折り曲げたときの力加減、畳縁の固さなど、たくさんの感覚もお持ち帰りできるから、満足感はとっても大きい。
さあ!いよいよ二人の工程は最終段階
芯材を入れた畳縁を大針を上手に使って、しっかりと折り曲げながら、くるりと反対側へ持っていき、タッカーで固定させたら畳縁の取り付け完了!
完成まであと少し、がんばろう
畳に畳縁が付いたら、飛び出している畳縁の生地を少し切り落として、裏側へ折り曲げてタッカーで固定。しっかりと畳縁の生地を裏側へ引っ張るようにして折り曲げないと、ガバガバと格好の悪い縁になってしまう。
ここは腕の見せどころ。
母娘のどちらが器用かな・・・!
「すごくこだわるよねえ」
クスクスと微笑みながら、横から可愛いツッコミを入れる娘の声に、母は貫禄の落ち着きで見事な仕上がり!あとは、大針を使って四つ角の微調整をして形を整えたら、最後に裏側に滑り止めを貼って・・・・
ついに完成!「ははっ!すごい、できたー!」
自然に笑みがあふれる二人は、ちょっと見せてとできあがった畳を交換して、お互いの出来栄えを確認。
畳の素材から、縁の色柄まで自分たちで選んで作ったという達成感と、完成までの工程で体感した新鮮な驚きや感覚、そして何より母娘の思い出がひとつ増えて満足感に包まれた二人。
じんわりと愛着が湧いてくる世界にひとつだけのミニ畳。それをコースターにして、お抹茶をいただく。
その温かさと、畳体験の心を満たす暖かさに、
二人は同時にほころんだ
只見工業所 基本情報
住所:宮城県栗原市若柳字川北片町54
電話:0228-32-3356
補足情報
創業天保7年という長い歴史を持つ畳屋「只見工業所」の名前の由来は非常にユニーク。地域独特の訛りで「畳(たたみ)」を「ただみ」と呼ぶことから、只見という名が付いたと言われています。
日本国内問わず、海外からも注文を受けることも多く、スタンダードなデザインの畳以外にも、曲線デザインなど特殊な注文にも対応可(要相談)。
また、畳表の加工時に出る「い草」の端切について、廃棄してしまうのはもったいないと感じ、い草独特のアロマ効果を活用し防臭剤として、来店いただいたお客さま(希望者)に小さな巾着に入れてプレゼントのサービスも!
「畳は日本の伝統であり古風なイメージがありますが、現代風にアレンジすることもでき、大きな可能性を秘めたものということを、多くの人たちに知ってもらいたい」と語る只見工業所の只見直美 社長。SNSなどを活用しながら自身のご自宅で実際に使用しているモダンテイストの畳を、写真付きで情報を発信しています。
畳の奥深さを学べる只見工業所のミニ畳作り体験はおすすめです!