大人の休日旅
更新日: 2024年01月23日(火)
伊豆沼・内沼はすまつり
暦の上では秋を迎える頃(7月下旬から8月下旬)、栗原市を象徴する大きな沼「伊豆沼(いずぬま)」そして隣接する「内沼(うちぬま)」には大輪のハスの花々が咲き広がり、その時期になると毎年「伊豆沼・内沼はすまつり」が開催されている。沼一面にゆったりと浮かび、太陽の光を受けて輝くハスの花々は、まるで一年に一度だけ現れる水上の花世界のようで、その神秘的な光景を一目見ようと、毎年国内外から多くの観光客が訪れている。
今日は、この「伊豆沼・内沼はすまつり」を目当てに、一人の女性が伊豆沼に降り立った。仕事に追われる日々の合間を縫って、たった一人の自由な旅「大人の休日旅」を満喫する、それが目的だ。この日のために準備した涼やかな浴衣に身を包み、真夏の日差しに目を細めながら、その表情はどこか儚げな雰囲気。そんな表情が許されるのも、誰にも心配をかけずに自分の時間を過ごせる「大人の休日旅」の醍醐味だ。
伊豆沼は近年の温暖化の影響によって、天候や日照時間、災害などで毎年の開花状況が異なっていると言う。今年(2023年)は昨年の豪雨で沼の水位が上昇し、一部のハスは水没して枯れてしまったが、その中でも生き延びたものたちが可憐な花を咲かせていた。
そして、毎年はすまつりで大活躍するのが地元の船頭さん。可愛らしいハイカラな屋根を付けた6、7人乗りの小舟を操り、乗船客に約20分間の美しい水面の旅を提供してくれる。
『はい、出発しますよぉ!救命具を着てしっかり捕まっててね。』
小舟はブルルルンと軽快なエンジン音を鳴らしながら、ぐるりと周り水面の旅へと出発!
真夏の暑さを忘れてしまうほどの爽やかな風が、スゥッと船の中を通り抜け、さっきまで居た桟橋が小さく見え始めた頃、目の前には大人の手を広げたほどの大きなハスの花たち!
風にゆらゆらとなびく桃色の花たちは、沼の奥からスラリと伸び地上に顔を出していて、その姿は力強さに加えて、凛としたたくましさも感じる。伊豆沼に生育しているハスは食用ではない種類で、食用のハスは茎の部分を「蓮根(レンコン)」として市場に出している。また、花の色は伊豆沼のような桃色(赤)の他にも白色が存在し、その違いは食用とは無関係と言われている。見れば見るほどハスの魅力に惹き込まれて行きそうだ。
そんなハスの花を見つめながら『ふぅ』っと深呼吸。
日頃の慌ただしい時間を忘れて、やわらかな風と水面に咲く花々に自然と笑顔が浮かぶ。青空に映える桃色のハスの花は芸術的な魅力以外にも、見るものにエネルギーを与えてくれる、そんな不思議な世界が存在しているかのようだ。
『あそこに座ってもいいですか?』
『ふふっ』と、ほころんだ表情を見せながら足早に船首(せんしゅ)に座ると、ハスの花たちはそれを見守るかのようにして、フワリと揺れ動いた。伊豆沼の大自然が人々に笑顔を呼び込み、日々の目まぐるしい時間の中に「大切な時」を与えてくれる。
ポツリと溢れ出す言葉は
『来てよかったなぁ』
20分間という水上の幻想的な時間は、普段あっという間に感じる時の刻みとは違い、ハスの花たちがゆうらり揺れ動くような、そんなゆっくりとした時間が流れていた。
『ゆっくりしていきなさい、のんびりしていいんだよ。』
まるで、ハスの花々からそんな声を掛けられたかのようで、思わず笑みがこぼれた。
広大な水面に広がる美しいハスが、これからもここに生き続けられますようにと願いつつ、『また来よう』そう心の中でつぶやいた。
うーんと伊豆沼の透き通るような空気を吸い込むと、なんだか美味しい珈琲を飲みたいなと閃いた。こんな風に突然思った時にフラッと立ち寄ってみる、それができるのも大人の休日旅の良いところ。時間を気にしないで自由に動く。
『こういう感じ、良いよね。』
パッと調べてみるとここからほど近い場所に、素敵なジャズ喫茶「カフェ・コロポックル」というお店の情報を発見。ここから車で1、2分(徒歩で約10分)、なんて素敵!と思いつつ、早速カフェへと向かった。
■場所情報■
名称:伊豆沼・内沼はすまつり
住所:栗原市内に下記2カ所の会場有り
[伊豆沼・若柳会場]※記事でご紹介した会場
宮城県栗原市若柳字上畑岡敷味17-2付近 (宮城県伊豆沼・内沼サンクチュアリセンター付近)
[内沼・築館会場]
宮城県栗原市築館字横須賀養田20-1付近(栗原市サンクチュアリセンターつきだて館付近)
開催期間:7月下旬から8月下旬 ※ハスの開花状況により、開催期間や遊覧船の運行時間に変更が生じる場合があります。
営業時間:午前7時から午後3時 ※ハスの開花状況により、開催期間や遊覧船の運行時間に変更が生じる場合があります。
おすすめ情報:
ハスの特徴として、早朝に咲き、昼には閉じる習性があるため、満開の花を見るためには、午前中に遊覧船に乗るのがベストです。その日の天候を確認してから会場に向かおう!
カフェ・コロポックル
栗原市に大きく広がる伊豆沼・内沼。兄弟のように隣接しているそれらの沼の周辺には、他ではなかなか体験出来ない魅力的な施設や店舗が存在する。その中の一つ「Cafe Korpokkur(カフェ・コロポックル)」は小高い丘の上に建つ、ジャズ喫茶だ。日本では1960年代から70年にかけてジャズを楽しみながら美味い珈琲をいただくという、新しい喫茶スタイルの文化が誕生した。一時は音楽業界のオーディオ機器にも様々な手法が取り入れられて、国内のジャズ喫茶の数も減少傾向だったけれど、近年また盛り上がりを見せ始めている。
カフェ・コロポックルは、そんな日本文化であるジャズ喫茶を現代風にアレンジしたお店で、2016年の春に伊豆沼からほど近い丘の上にオープンした。コンセプトは「気楽にジャズと触れ合い、寛げるお店」だ。音楽と珈琲を同時に楽しめるのも素敵だけれど、お店のテラス席から伊豆沼の豊かな自然を一望出来るのも、とっても魅力的!
「伊豆沼・内沼はすまつり」を目当てに、たった一人の自由な旅「大人の休日旅」を満喫中の一人の女性。ついさっきまで居た「はすまつり会場(若柳会場)」からわずか車で1、2分の場所に、こんな素敵なカフェがあるとは思わず、驚きの表情を浮かべてしまう。
『カフェ・コロポックル。アイヌ語でふきの下に住む小人の神様かぁ。』
手作りの木彫り看板を見つめつつ、早速店内へ。
店内に入ると思わずステップを踏みたくなるような、重低音の軽快なジャズの音が耳に飛び込んできて、そこはどこか異国の地の小さなライブハウスに足を踏み入れたよう。あたたかい暖炉のような照明が一段と雰囲気を盛り上げ、そして専用スピーカーに照明機材が天井からちょこんと顔を出している。周囲を取り囲む壁には、錚々(そうそう)たるアーティストのポスターや年代物のレコードにトランペットまで!いたるところにジャズの要素が散りばめられているので、思わず席に座るのを忘れてぐる〜りと見惚れてしまう。
喫茶のご主人は店内に設置されている一部のスピーカーを、自分で手掛けたほどの大の音楽好き。それと同じくして、店内で提供している珈琲の豆や淹れ方にもこだわりがあると言う。そこには単なるジャズ喫茶ではなく、本格的な珈琲の味も楽しめる店にしたい、と言うご主人の想いが感じられる部分だ。
『CDはね、8000枚くらいに・・レコードは約1000枚かな。あと他の音源も含めると、大体1万枚くらいあるね。』
ご主人は珈琲を淹れながら、さらりと店内のレコードやCDなどの説明をしてくれた。店内にある音源は、50年代後半から60年代のモダンジャズに加えて、ヨーロッパ地域やアメリカのニューヨーク出身のアーティストの楽曲など様々。店内で流してほしい曲があればリクエストをすることが可能で、お気に入りの曲を聴きながら本格珈琲が味わえる。
店内窓際の椅子に座り、外を眺めるとそこには輝く水面が美しい伊豆沼の姿。スゥッと青空を流れるように飛行する野鳥の姿に、沼の周囲を囲む青々とした植物たち。この窓からの景色が絵画のようで注文した珈琲が届くまでの時間、ただただ眺めているだけでも不思議と贅沢な気持ちになってくる。
ご主人が丁寧に淹れている珈琲の香りが店内を包みこみ、ジャズの心地良い音が心をじんわりと満たしてくれる。友人や家族で旅をするのも素敵だけど一人で自由気ままに、こうやって時間を忘れて物思いに耽ったり出来るのは、大人の休日旅の醍醐味だ。
心の奥から込み上げてくる嬉しさを感じていると、そこにご主人の優しい声が響く。
『おまちどうさま。やっぱりね、美味しい珈琲はちょっと時間がかかるんだよね。』
そう言ってご主人はニコリと微笑むと同時に、淹れたての珈琲をソッと置いてくれた。珈琲からは、ふわりと立ち上る甘く深さのある上質な香り。店内の珈琲豆は東京都板橋区にある自家焙煎珈琲専門店「カフェ・ベルニーニ」から直送したもの。ご主人が選び抜いたその味は、ジャズの世界のように深い。
珈琲の香りとジャズに酔いながら、ついつい珈琲を飲み終えた後もそのままのんびりと新聞を広げて読んでみたり、お気に入りの本を片手に長居をしてしまう。ゆったりと流れる時間に焦ることなく、身を任せていられる安心感がここには存在しているようだ。
伊豆沼の小さな丘にあるジャズ喫茶「カフェ・コロポックル」。一杯の珈琲とジャズの音、伊豆沼の景色がまるで映画のワンシーンのようで、大人の休日の旅だからこそ沁みたひとときの素敵な時間。
窓際からの変わらない景色を願いながら『また来るから』そう心の中でつぶやいた。
■場所情報■
名称:Cafe Korpokkur(カフェ・コロポックル)
住所:宮城県栗原市若柳上畑岡原20-6
営業時間:10:00~18:00
定休日:毎週火・水曜日
駐車場:有り
おすすめ情報:
伊豆沼のほとりにある白い鍋のような形状の「伊豆沼・内沼サンクチュアリセンター(鳥館)」から徒歩5分の場所に「カフェ・コロポックル」がある。二箇所は距離がとても近いので、併せて楽しむことが可能だ。