歴史を紡ぐ場所、くりでんミュージアム
更新日: 2023年09月27日(水)
栗原市若柳のくりでんミュージアム。2007年(平成19年)に廃線となった「くりはら田園鉄道」の車両を実際に見たり、触れたりしながら楽しむことができる施設だ。
今日はここに、1組の親子がやってきた。
くりでんミュージアムへようこそ!
ミュージアムの旅へ出発進行!
にっこりと微笑む受付スタッフの方が、切符の形をした入館券を慣れた手つきで、印字器具にガシャリ!と通す。
「この道具は、実際にくりでんの切符に日付を印字していた機械で、今もこうやって入館券の印字用に使っているんです」
じいっと見れば見るほど、味のある硬めの切符(入館券)。二人は、ぎゅっと入館券を握りしめ、さっそくミュージアムに入館!
「どうぞ、改札へお進みください」
ははっ!二人は“改札”と聞いて、にこりと笑みを浮かべながら切符を片手に、小走りで駆け寄る。さあ、いよいよミュージアムの旅へ出発進行だ!
改札口を抜けると、そこはプラットフォーム。くりでんが長い間たくさんの人々を送り迎えした駅の看板が並んでいた。
やさしい丸みのある書体で、大きく表示されている駅名。
「わかやなぎ・・やちはた、おおおかしょうまえ。若柳は、ここの場所よね」
ひとつひとつの名前を口ずさむ程に、当時の駅舎の風景が浮かび上がるような看板たち。ところどころ擦れていたりするのも、長い年月を経て人々の生活に寄り添い、役目を果たしてきた証。
「たくさんの駅に停まっていたんだね・・」
車両が見学できる機関車庫へ
看板をしばらく見つめた二人は、次に機関車庫へ。そこはKD12というタイプの車両の見学ができる場所だ。
●KD12車両
「車両を下からのぞくことができますよ」
スタッフの方の声に対して「え!ここに入れるの?」と、驚いたように母に目を向ける。その表情は、ちょっぴりの不安とワクワク感。
そして、二人の視線の先は、ゆっくりと車両の下へと向けられていった。
「わあ、すごぉい! こんなの見たことないよ」
体を小さく丸めながら、すり足で戻ってきた親子の表情は、満面の笑み。展示されているからこそかなう、車両の底をのぞき込む経験は、こんなにも人間を喜ばせる。
改めてKD12を見上げると、どうだすごいだろう!と二人にウインクをしているかのよう。中はどうなっているのかな?
KD12の中に入ると、バスのような懐かしい雰囲気に包まれていて、色味もパッと明るくて居心地のよい空間。そして、座席には優しい栗色をしたくりでんの制服の帽子が、コロンと可愛らしく座っていた。
「わあ、ちょっとかぶってみよっか!」
「どう?大丈夫かな・・。あら、なかなか、いいんじゃない?」
お互いの姿をちょっぴり恥ずかしそうに見つめながら、くりでんの車掌さんとなった二人は記念撮影。そうそう、こっちを見て・・・
笑って、笑って・・・パシャリ!
KD12の車両内では、くりでんの帽子をかぶって記念撮影ができることと、もうひとつのお楽しみは・・・
大人気の運転シミュレーター
●初めて運転シミュレーターに挑戦!
「ちょっと、やってみよっか!」
よし! 母は軽く気合いを入れ、運転席に座り準備は万端。娘は母の姿をしっかりと見つめて横から応援。さあ、親子くりでん車掌さんたちは、無事にみんなを乗せて走ることができるのかな・・?
「えっ、どこを動かすの?これ、結構本格的・・!」
「お母さん、停まるの早すぎ!」
KD12の運転シミュレーターは、日本でも数少ない本物の運転台を活用して作られたもの。実際に運転席に座り、ブレーキハンドルやレバーを動かす感覚は本物だ!
そして、くりでんの懐かしい汽笛を鳴らすこともできてしまう。
ファ、ファーーン!
電車が好きな人には、たまらなく贅沢な時間を過ごすことができる本格シミュレーター。モニター画面が段々と本物の景色に見えてくるかも・・・
さあ、二人のくりでん車掌さんは、KD12車両で楽しい時間をたっぷりと過ごし、
次の場所へと出発進行!
●KD952車両
おもちゃ箱から飛び出してきたような赤い車両
KD12が展示されている機関車庫から一度外に出て、すぐ隣にある客車庫へと移動。車庫の観音開きの扉から、愛らしい赤色の車両KD952が顔を出して二人を待っていた。
全体的に角があまりなく丸っこい形のボディに、正面にはカンテラのようなデザインのランプが取り付けられていて、おもちゃ箱から飛び出してきたような可愛らしさ。
はたまた、二人がおもちゃの世界に迷い込んでしまったのかな?なんて、想像してしまうほど。
昭和の喫茶店のような懐かしい車内
さっそく、車両の中に入るとボックス型の座席が並び、床や座席シートの一部には木材が使用されていて、それらの木目模様がどこか昭和の喫茶店のような雰囲気を漂わせていた。
二人は、ボックス席に座り、ついつい窓から外を眺めてみる。本当に走っている電車に乗り込んでいるような気分で、さあ次は何を食べにいこうか、なんて会話をしてしまう。
車両内の壁には、KD952が現役だった頃から掲示している栗原の風景画が飾られていたり、外見も中身も他の電車よりも、ちょっとした工夫が施されている。
大勢のお客さまを乗せ、さっそうと栗原の地を駆け抜けていた頃の息づかいが、ボックスシートや床や壁などから今もなお感じることができる車内だ。
二人は、ぴょんと立ち上がり
次の場所、資料館へ向けて出発。
面白ポイントが盛りだくさん!
●資料館
面白ポイントがギュッと詰め込まれている
資料館までの途中には、くりでんが実際に走行していた頃の映像(運転席からの映像)を観ることができる「シアタールーム」や、実際に使用されていた工作機械を見学できる「展示スペース」も。
ついつい没頭してしまうと、時間を忘れて一日中楽しんでいた!なんてことになる面白ポイントが、ミュージアムにはギュッと詰め込まれている。
二人は資料館に入るや否や、鏡の前でくりでんの制服にお着替え
資料館では、くりでんの車掌さんの制服を着用して記念撮影をすることができるので、親子はもちろん友達同士で思い出作りのワンショットをキメよう!
すっかり、くりでんの制服が馴染んできた二人
あうんの呼吸でヒョコっと窓からお互いをのぞき込む。ちょっとしたことでも、親子で一緒に体験することで楽しみは倍に膨らむ。二人は向かい合って、にんまり。
あらためて切符に刻印された日にちをしみじみと眺める。こうやって訪れる人々の大切な時間と共に、ミュージアムにも歴史が刻まれてゆくのは、なんて素敵なこと。
歴史という素敵な贈り物
最後にミュージアムの向かい側にある旧若柳駅へ
深い墨色をした旧若柳駅舎。それは、誰もがふと立ち止まっては、そっと手を触れたくなるような深い味のある姿で、中にはボゥッとあたたかな黄金色のランプの光が灯っていた。一文字一文字、丁寧に書かれた「若柳駅」の看板に、時刻表も手書き。
「電車来ないかなぁ」
かつては、ここに多くの車両が出入りして、まだかなぁ、なんていう言葉を交わしながら、たくさんの人々が待っていた時代があった。
歴史という素敵な贈り物
時間は、人間も他の生き物も、物だって古くしてしまうけれど、その代わりに新しいものには真似できない、歴史という素敵な贈り物を届けてくれる。
2007年(平成19年)に廃線となってしまったくりはら田園鉄道(くりでん)。だけど、数え切れないほどの人々とその想いを乗せた歴史は、これからも途絶えることなく栗原の土地に生き続いていく。
若柳駅のランプの黄金色が一層濃くなった頃、真っ白い大粒の雪がゆっくりと親子二人の上に舞い降りた。
「今日は、楽しかったね!夕ご飯、何にしよっか?」
ほんのり雪化粧をした若柳駅舎を後にした二人は、ちょっぴり鼻を赤く染めた顔を見つめ合い、フフッと笑い合った。
ミュージアム基本情報
名称:くりでんミュージアム
住所:宮城県栗原市若柳川北塚ノ根 17番地1
電話:0228-24-7961
開館時間:10:00~17:00 ※入館は16:00まで
休館日:毎週火曜日、年末年始
補足情報:
くりでんミュージアムは、くりはら田園鉄道公園の敷地内にある施設で、同敷地内には旧若柳駅舎、直売所くりでん、遊具のある芝生広場なども徒歩圏内!このためミュージアムを楽しんだ後に、芝生広場へ遊びに行ったり、旧若柳駅を見学することも可能。また、毎年4月~11月には期間限定で、旧若柳駅の900メートルの線路を利用した、くりでんKD車両の乗車イベントを開催(毎月数回)しています。
なんと予約をすれば、シミュレーターではなく本物のKD車両の運転体験も可能!
そして、ミュージアム内の資料館には、全長16メートルの超本格的なくりでんジオラマもあり、一定の時間帯でミニチュア車両が走行します。じっくりとジオラマの街並みを見ていると、栗原市出身の有名な方々の姿を見つけることができるかも!?年齢問わず家族みんなで一日かけて楽しむことができる施設。実物のくりでん車両をぜひ体感してみてください。
食事スポット スプリングロード
くりでんを堪能してお腹が空いたら、隣にあるレストランで地産地消のグルメを楽しもう!
レストラン基本情報
名称:ガーデンレストランSPRING Rd.(スプリング ロード)
住所:宮城県栗原市若柳川北塚ノ根22-2 KWGP内
電話:0228-24-9821
補足情報:
赤レンガ造りの洋食レストラン。店内も広くソファ席もあるので小さなお子さま連れでも、ゆったりとくつろげるのがポイント。間接照明やテーブルなどのインテリアも、とにかくおしゃれな雰囲気。また、アルコールの種類も豊富なので、昼のランチタイムに限らず、夜にもおすすめ。
食事メニューには、栗原の豊かな土壌で育った野菜たっぷりのカレーや、熱々で大きなステーキが柔らかくとても美味しい! そして、お持ち帰り可能な店オリジナルの高さ約5センチ「元祖☆若柳バーガー」に、伊豆沼レンコンをサンドした「元祖☆伊豆沼レンチキバーガー」も必見。目の前にくりでんミュージアムという立地の良さもおすすめポイント。