注目の栗原グルメ!イワナ料理を食べ比べ
更新日: 2023年03月08日(水)
栗原市は日本の「イワナ養殖発祥の地」として有名な場所。その背景には一人の研究熱心な開拓農家の姿があった。
イワナ養殖発祥の地 数又養魚場
地域のために始まった「イワナの養殖」
1968年(昭和43年)、栗駒山の中腹に位置する耕英地区で、農業を営んでいた「数又一夫(かずまた かずお)」さん。当時、この地域では「なめこ」や「いちご」が生活の糧となっていたが、徐々に衰退。地域を活性化させるためにも、なんとかしなければと悩んでいたとき、一夫さんはイワナに目をつけ「よし、養殖をしてみよう!」と思い立つ。
その後、毎晩川へ卵を持つ親魚を取りに出かけるが、なかなか思うようには進まず、失敗。しかし、その翌1969年(昭和44年)に1万匹のふ化に成功。そこから徐々に数を増やし1970年(昭和45年)には4万匹になった。
イワナの養殖は一般的に難しいと言われていたにもかかわらず、一夫さんの長年の研究成果と、栗駒の自然環境が好影響を及ぼし成功に至った。
この1968年(昭和43年)からスタートした数又一夫さんの取り組みを皮切りに、地域活性化のための「イワナの養殖」が現在まで続いている。
イワナというと串に刺さった塩焼きが有名だけれども、じつは他にも甘辛いタレと合わせ炭火で焼いたものや、刺身に醤油漬け、天ぷらにフライなど多種多様な料理が存在する。
栗原市を訪れた際には、自然散策をしながらお腹を空かせて、食べ比べをしてみよう!
イワナのフルコースが人気 岩魚の館
「岩魚の館」でイワナ料理を楽しむ
栗原市が「イワナ養殖発祥の地」と呼ばれるきっかけを生み出したのが、数又養魚場の先代「数又一夫」さんだ。現在、息子の貞男さんが二代目として養魚場管理の他に、イワナ料理を提供する「岩魚の館」を夫婦で経営している。
「毎日遠くから来てくれるお客さんがいる限り、やっぱり店は開けないと。自分がいつどうなるかわからないけど、父親が苦労して立ち上げたことを辞めるわけにはいかない」
そう呟いた貞男さんが見つめる先には、駐車場に停まっている他県ナンバーのお客さまの車。数又さん親子の愛情をたっぷり受け継いできたイワナの料理を、さっそくいただこう。
お店の暖簾をくぐると、ひんやりとした石造りの廊下の向こうに、畳敷きの大きな広間が現れた。室内には鼻をくすぐるなんとも香ばしいにおいが充満している。これはきっと塩焼きの香りだな...あぁ、でも蒲焼のタレの香りも混じっている...
メニューを想像しながら目を閉じて香りを楽しんでいると、どうもこれだけで白米を食べられそうな気がしてくる。
「グゥ~ッ」
静かな店内でお腹の虫が大きく鳴った
「岩魚の館」は自然豊かな山林にあるので、あたりは静けさが漂っている。なんとも気恥ずかしくなり、慌てて靴を脱いだ。とても綺麗にしつらえてある店内だ。
不思議と、初めて訪れた気がしない。まるで祖母の家に遊びに来たような、優しく暖かな雰囲気に包まれている。座布団に腰をおろし、湯呑みから温かいお茶を一口いただいた。ふぅ、落ち着いた。
窓から見える木々のざわめきに目をやっていると、岩魚の館の店主である数又さんが、カウンターから「できあがりましたよ~」と声をかけてくださった。ウキウキしながらカウンターへと向かう。
うーん、まさにイワナのフルコース
お盆の上には小鉢・お漬物・お吸い物・お重がぎっしりと載っている。追加でお願いしたイワナの塩焼きとイワナの田楽は、品の良いお皿に別添えされていた。
最初に目を奪われたのが、重箱いっぱいに詰められたイワナ重だ。鰻や穴子のお重は食べたことがあっても、イワナ重なんて人生で一度も食べたことがない。一体どんな味なんだろう。
甘辛い蒲焼の香りがふんわりと広がるイワナ重
タレ焼きされたイワナは、美味しそうな焼き目をつけていて、とても上品な照りだ。
いざ、実食
まずはイワナに箸を入れるとホロリと身がほどけた。下の白米も一緒に慎重にすくい上げ、そっと口へ運ぶ。とたんに、癖のない脂がたっぷりとのったイワナが、ジュワッと甘辛いタレと絡み合った。そこへ山椒がピリリとさわやかに後味を引き締めていく。
ーーーーあぁ、美味しい!
箸では役不足と感じるほど、思い切り食べたいと思ったそのとき、盆に乗ったスプーンが目に入った。
よし!
添えられたスプーンにたっぷりイワナと白米を載せ、大きく口を開けて頬張る。
もうこうなったら止まらない。あっという間に1枚を食べつくしたところで、ようやくお吸い物を口にする。口いっぱいに広がった滋味深い脂がさっぱりと消えていく。
イワナ重の美味しさに驚き、満足した気持ちで改めてお盆に目を向けると、小鉢は「なめこおろし」「イワナの酢漬け」「大根と人参のなます」だった。お重の箸休めには最適のパートナーだ。
そして、一つ見慣れないものがあった!
最初は「いくら」かと思っていたが、どうも大きさや色味が違う。なんとこちらは「イワナの卵」だった。またしても初めて食べるイワナ料理だ。口に入れるとプチプチと身がはじけた。イクラほど塩気が強くなく、数の子ほど粒が強くない。ほんのりとお醤油の香りがする滋味深い珍味だ。これはお酒が欲しくなる。
さぁ、勢いそのままに別添えのイワナの塩焼きだ
勢いよく両手でつかみ、身の真ん中に大きくかぶりついた。うん、美味しい。間違いのない安定した美味しさ。だが、今まで食べたイワナよりも圧倒的に川魚特有のにおいが少ないような気がする。これが養殖イワナの美味しさのポイントかもしれない。塩気は強すぎず少なすぎずで絶妙のバランスだ。焼き加減も最高で、皮はパリッとしているのに身はしっとりと柔らかだ。
次はイワナの田楽をガブリとやる
これも初めてのイワナ料理だ。田楽味噌そのものが奥行きを感じる甘辛さでとても美味しい。これがイワナの内臓の苦味と非常にマッチする。うーん、だめだ。お酒が飲みたい。脳裏にお店のメニューにあった生ビールがちらつくが、今日は運転があるんだ、とグッと口を一文字に結んだ。(ぜひみなさんは運転手に同行してもらって一杯どうぞ)
ポリポリと沢庵で口を締め、お重に戻る。先ほどより少し冷めてしまったが、冷めても身はしっかりとやわらかく、タレの味がよく染みていて美味しい。
あっという間にペロリと平らげた
イワナといえば、観光地で小腹を満たしてくれる食べものという認識だったが、数又さんのおかげでその印象がガラリと変わった。イワナの可能性は無限大だ。
お腹いっぱい満足感いっぱいで、お礼を言ってお店を後にした
お店に入るときには気がつかなかったが、駐車場の奥に川らしき水辺がある
近づいてみるとなんとイワナが泳いでいた。養殖と聞くと小さな生簀をイメージしていたが、まるで自然の中で生きているようではないか。見た目にもイワナが生き生きとしていることがわかる。
また、そのそばには柔らかな文字で、「イワナがびっくりするので静かにしてください」の看板。なるほど、こんなにも数又さんの愛情が注がれて育ったイワナだから、美味しいわけだ。
大きく膨らんだお腹をさすりながら幸せいっぱいに車へと乗り込んだ
新湯温泉 くりこま荘のイワナ丼
「くりこま荘」のイワナ丼を楽しむ
あま〜い香りと共に目の前に運び込まれた「イワナ丼」。美しい山のように高くそびえ立つのは、カラッと揚げたてのイワナと舞茸などの野菜だ。
くりこま荘のタレの芳醇な香りは、もうそれだけで美味しくて、秘伝だというのについつい購入可能かを確認してしまった。んー、いい香り。
付け添えの小鉢は季節ごとに変わるそうで、今の時期だと「なめこ」「ミズの実」など。
サクッと骨まで食べられるイワナ丼
さあさあ、イワナを頬張ろうと尻尾を箸でつまむと、ひょいっとカラリと揚がった骨が登場。あれれ!なんと、イワナは3枚おろし状態。まんまるに見開いた目で、うわあと驚きの声を上げてしまった。イワナというと塩焼きのイメージばかりが先行してしまうけれど、そうか3枚にもおろせるんだよなと実感。
改めてまずは、イワナの身を食べようと持ち上げると、ふにゃりと曲がり、そしてすぐさま口へ。サクッ!
心地良い衣の音とともに、イワナのふわふわの身が広がり、あまじょっぱい秘伝のタレが後を追いかける。ああ、美味しい〜!
薄めでサクサクの衣の下から、真っ白でふんわりとしたイワナの身があふれ出す。これは絶妙な組み合わせ。
くりこま荘のイワナは、養魚場からお店に入ってきてすぐに専用の生け簀で自由に泳がせ、餌を与えないのが特徴。餌には独特の臭みがあるので、それが身に残ってしまうと臭みの原因になってしまうこともあるそうだ。
注文を受けると生け簀からイワナを取り、蒸したり下茹でせずに、そのまま3枚おろしにして、カラッと揚げる。それだけでこんなにもふわふわな食感に。
サクッサクッ
美味しい音をあげながら、外を見ると黄色に色づいた木々が美味しそうだなあと、こちらを見つめているようだった。
くりこま荘さん、ごちそうさまでした
その他 イワナ丼のお店
●山脈ハウス
2022年7月に再開した山脈ハウス。ハイルザーム栗駒のすぐ真後ろの位置にあり、養殖用の大きな生け簀が目印。警戒心の強いイワナを運が良ければ見ることができます。店内ではイワナを丸ごと一匹天ぷらにした珍しい丼を食べることができます。頭まで全部食べることで、イワナの深い味わいを感じることができます。
●温湯温泉 佐藤旅館
現在の支配人が「イワナは、漬け丼にできるんじゃない?」と思いついたアイデアが大成功。午前中にはほとんどが売り切れてしまうほど、大人気の「イワナの漬け丼」。優しい甘めのタレに漬けられたイワナはほんのりピンク色。筋が一切ないので、とろりと溶けて熟成された味わいになっています。クセもなく、胡麻の風味と香ばしさが嬉しいアクセント。イワナの新しい可能性を感じる丼です。
●ハイルザーム栗駒
イワナといえば、串に刺さった塩焼き。焼きたてをガブリと噛むと、柔らかい皮の後からホクホクの身がこぼれ出します。丸ごとをそのまま焼いているので、食べ進めるとイワナの脂が旨味となって豊かな味わいを楽しむことができます。皮に近い部分のホクホクから、しっとりとした食感に変わっていくのも塩焼きの美味しさの秘密。骨ごと食べられるので、食べ応えがあります。
まとめ・感想
栗原市を訪れるまでイワナは塩焼き調理しか知らず、3枚におろすことや、タレに漬け込んだり、蒲焼きにしたりという方法に、何度も目を見開いて驚きました。
実際に食べ比べるとどれも本当に美味しい。取材中は時間がなく店内でゆっくりと完食できなかったことも多かったのですが、お持ち帰りをさせてもらい、全部いただきました。
最も驚いたのは柔らかさ。どの調理法でも顕著に感じました。鮭や鮪のように筋もなく、川魚特有の臭みやクセもない。今後もイワナの調理法の幅が広がりそうな予感がしています。
栗原の自然と綺麗な水で健やかに育ったイワナは、地域の宝物。どうかこれからも美味しいイワナを食べさせてください。ごちそうさまでした!