女子旅 伊豆沼・内沼でマガンの飛び立ち

女子旅 伊豆沼・内沼でマガンの飛び立ち

更新日: 2023年03月08日(水)

「真っ暗だね…、そして寒い!」

冷たく吹きつける風に、思わず手をポケットに押し込む。二人は宮城県栗原市の若柳地域にゆったりと広がる湖沼、伊豆沼にやってきた。

伊豆沼・内沼エリア

早朝のマガンの飛び立ち

夜明け前の伊豆沼。まだ周囲は真っ暗闇。

早朝のマガンの飛び立ちを撮影するため、お気に入りのカメラを持参

ここに到着するまでの道のりはというと、撮影当日は朝が早いため前日から伊豆沼にほど近い市内のホテルへ宿泊。そして今朝は早朝5時に起床し、眠い目をこすりながら暖かいダウンで身を包み、使い捨てカイロを忍ばせ、さらに温かい飲み物も準備万全。

いそいそと車へ乗り込み、若柳築館線とも呼ばれる県道176号を登米市方面へ向かって走らせてきた。

まだ夜明け前ということもあって、周囲は真っ暗闇。加えて、伊豆沼といってもどの場所でマガンの飛び立ちが見られるのか? 特に目立つ目印もない。

しかし、旅慣れた二人にはなんのその。慣れた手つきで、スマートフォンでマップを確認し「伊豆沼雁の飛び立ちポイント」を発見。無事にたどり着いた訳だ。

飛び立ちポイントは、伊豆沼の一番端っこに位置するため一度訪れれば、次回はスムーズにたどり着けそうな場所。ただ、トイレや自動販売機、また専用の駐車場などはないため、湖の近くに車を寄せて駐車をするのだが、道幅が狭いため注意が必要だ。

 

日の出の時間が近づくにつれて、徐々に辺りが明るくなってくる

時計の針が午前6時20分を過ぎた頃…

うっすらと濃い藍色のベールに覆われた空と、伊豆沼の湖面に朝焼けの橙色が美しく浮かび上がる。

沼の広さは369ヘクタールの面積を誇り、宮城県でもっとも大きく、栗原市と登米市にまたがるようにして広がっている。隣接している内沼は、伊豆沼と川一本でつながっているが、かつては一つの大きな沼でその大きさから大沼と呼ばれていた。

 

うっすらと濃い藍色のベールに覆われた空と、伊豆沼の湖面に朝焼けの橙色が美しく浮かび上がる

「わあ、ねぇ!明るくなってきたんじゃない?」

「本当だ!ほら、カメラ、カメラ!」

二人は、クスッと笑って抜群のタイミングでカメラを向ける。冬の透き通るような寒い空気なんて、仲良し二人にはお構いなし。どちらかが凹んだときには、自然と一方が包み込み、言葉がなくたってちょっとの仕草でうなずける関係。

 

美しい日の出を見つめる二人。伊豆沼・内沼は、世界でも希少な湖沼として知られている。

伊豆沼・内沼は、世界でも希少な湖沼として知られている

毎年2,000から3,000羽のオオハクチョウや、数万羽のマガンなど多くの渡り鳥が冬越えをするために訪れる。

真冬でも基本的に最高気温が4度前後まで上がり、水面が凍りにくいことと、鳥たちが好む水生植物も豊かで、その他さまざまな条件が重なり、多くの鳥たちにとって居心地の良い住処として人気となっているのだ。

 クゥーククゥ、クァクァ

 

朝焼けの光が伸びると同時に、マガンの鳴き声がオーケストラのように美しく響き渡る

かすかに聞こえたと思っていた数羽のマガンの声は、次第にオーケストラの楽曲のように鳴り響き、同時に朝焼けの光はグーンと、沼のほとりにたたずむ二人の方向へと伸び始めた。

間もなく、辺り一面に鳴り響くマガンの鳴き声

 

辺り一面に鳴き声を響かせながら、同じ方向へと飛び去っていくマガンの群れ

ククゥー・・! クァークァ!! 

クァークァー!!!

太陽が昇ったぞ!いくぞ!

まるで1羽のリーダーがかけ声をかけているかのように、マガンたちは一斉に漆黒の翼を優雅に泳がせて、同じ方向へ流れるように飛び立つ。

 

あまりの迫力ある光景に、笑顔で夢中になってシャッターを切り続ける二人

「わはっ!これは、すごぉい!!」

カシャリ、カシャリ……!

肉眼でも見たいけれど、二人はお気に入りのカメラのファインダー越しに声をかけ合った。シャッターが間に合わないほど、一斉に押し寄せてくるマガンの群れは、その迫力に呑み込まれて鳥肌が立ってしまうほど。

二人はゴクリと息を呑む

 

早朝の朝日が生み出す穏やかで柔らかな橙色に、うっすらと藍色の夜の名残が見事に折り重なり、その美しいグラデーションに言葉を失う

アルファベットの「V」の字編隊で飛ぶマガン

マガンたちの飛び方には、ある種のパターンも見えてきた。その背景には何度も見つめ直してしまうほど美しい色彩の世界が広がる。

早朝の朝日が生み出す穏やかで柔らかな橙色に、うっすらと藍色の夜の名残が見事に折り重なり、その美しいグラデーションに言葉を失ってしまう。

この美しい瞬間を目当てに、日本国内に限らず世界中から多くの人々が訪れるというのには、納得だ。すでに、二人の周囲には何組もの人々がカメラを構えている。

間もなくして、二人もゆっくりとカメラを下ろし、

改めて神秘的な目の前の風景を見つめた

 

アルファベットの「V」の字編隊で飛ぶマガン。この美しい瞬間を目当てに、国内外から多数の人々が訪れる。

不思議と、目の前にゆらめく悠然とした伊豆沼を眺めていると、時間という存在を忘れてしまう。

「すごいねぇ。早く起きて良かった!」

「本当そうだね。上手く撮れた?」

「見せて!見せて!」

互いのカメラを交換しながら戯れあう姿を、上空からマガンたちが見下ろし、心地よい鳴き声をあげていく。

二人は、想像以上の美しさに大満足。

自然と溢れてくる笑みを浮かべながら、次の旅路へと出発した。

 

施設基本情報

名称:伊豆沼・内沼(伊豆沼雁の飛び立ちポイント)

住所:宮城県栗原市若柳上畑岡獅子ケ鼻11−1 ※伊豆沼の飛び立ちポイントの住所

料金・営業時間:無料開放場所

 

☆補足情報:

伊豆沼は面積も広く、いくつかの観察場所が存在します。しかし、いずれも一般的な沼のほとりのため、看板や目印などはありません。文章内の二人がマガンの飛び立ちを見学した場所は、インターネット上のマップ(Googleマップ)の「伊豆沼雁の飛び立ちポイント」という名称の場所。時間に余裕を持って、実際に見学をする前日までに、一度場所を確認してからの出発をおすすめします。

マガンの飛び立ちを見学できる時期は「毎年11月から1月」にかけてと言われています。近年の気候変動による影響が心配ですが、現在(2023年)のところは到来時期に大きなずれはなく例年通りです。

ただ、注意すべき点は「日の出時刻」と「天候」。マガンは、日が登り始めて数分後に数回に分けて飛び立ちますが、その日の天候によって雨の場合は飛び立ちが遅れたりなど、状況によって変動します。

見学日を決定する際には当日の天候予報は必須、加えて前日に見学場所の確認をおすすめします。(沼のそばに宮城県伊豆沼・内沼サンクチュアリセンターという施設がありますので、事前にそこで沼の情報などをチェックすることも可能です。)準備万端にして、大自然の感動の瞬間を体感してみてください!